平成28年 第1回臨時会での所信表明

更新日:2021年04月03日

 去る2月28日の市長選挙におきまして、多くの市民の皆様をはじめ各方面からの力強いご支持を賜り、本日、この壇上から、対馬市の舵取り役として、今後4年間の市政運営に対する所信を述べる機会をいただきましたことに、心から感謝申し上げます。

 対馬市は、平成16年3月の誕生以来、第1次対馬市総合計画において「アジアに発信する歴史海道都市 対馬」を将来像として掲げ、国境という特異性と各地域の個性を活かしたまちづくりを進め、市の発展を目指して参りましたが、世界にも類を見ないスピードで進行する高齢化の波により、国内の多くの地方自治体と同様、人口の減少が進み、産業も停滞し、今ひとつ閉塞感から抜け出せない現状ではないかと感じています。

 このような中、平成26年度から2カ年間かけて、市民の思いや地域の課題を共有し、その解決に向けた施策をオール対馬で協働し、創造していくための第2次対馬市総合計画が策定されました。あらためて、「行政の役割」とは、市民と地域と企業等との連携、そして、議会との情報の共有に努めることが肝要であり、将来像とする「みんなで目指そう 自立と循環の宝の島 対馬」の構築の道であると確信したところであります。

 副市長を退任後、対馬全島を隈なく歩きました。地区内のいたるところに空き家があり、今にも倒壊しそうな廃屋から、まだ、新築されて間もないような空き家を目にしたときは、大変なショックを受けたところであります。その一因は、基幹産業である農林水産業の衰退をはじめとする市内における安定した雇用の場の減少にあると考えます。

 対馬の人口は、昭和35年の約7万人をピークに減少の一途を辿り、現在も進行しています。第1次産業における就労人口約1万7千6百人が平成22年には、約3千3百人にまで激減し、なかでも、水産業の漁獲高においては、ピーク時であった昭和56年の約356億円と比較しますと3分の1の137億円にまで減少している状況が背景にあります。当然のことながら、この34年間で漁業者(組合員数)も約8千2百人から4千7百人と半減しています。

 その一方、「市民協働のまちづくり」の取り組みは、市民に徐々に浸透しつつあり、対馬(しま)を元気づけるため一念発起した若者たちが、地域の祭りの復活や対馬のアピール活動等を展開し、「地域」のみならず「全国」のステージにおいて、その心意気を見せつけています。対馬の豊かな未来を築くための若い力が育ち、結集しつつあることも現実であります。大変、心強いものであると受け止めております。

 以上のことを踏まえまして、対馬は、農林水産業の活性化が最優先課題であると認識しております。

 対馬の豊かな水産資源や林産資源を活用した「対馬(しま)」ならではの特産品は数多く、知名度も徐々に向上しつつあります。今後は、「ふるさと納税制度」の運用において、しまの特産品を返礼品として積極的に採用することにより、雇用の場の創出と所得の拡大を目指して参ります。

 併せて、20万人を超える韓国人観光客を今後も継続して呼び込み、加えて、国内からの誘客の拡大を図るため、宿泊施設や観光基盤施設等の受け入れ態勢の整備・充実を一層進めて参ります。

 先に触れましたが、はじめに着手すべきは、「ふるさと納税制度」の有効活用であります。政府は、「制度の主旨から返礼品が過度になりすぎないように」と注意喚起を行っておりますが、その活用が地域の産業振興の起爆剤となっていることは、すでに、県内の平戸市が実証済であります。しかし、平戸市も一朝一夕に実現できたものではないと思っています。生産者、加工業者、販売業者と行政が一体となって初めて、ふるさと納税者の皆様に喜ばれるシステムが構築できたものではないでしょうか。本市においても、生産者等の所得向上と雇用の場の創出のため、対馬産品を返礼品とした「ふるさと納税制度」の構築に直ちに着手いたします。

 さらに、交流人口の拡大を図る観点から、高額な「ふるさと納税」をいただいた方を対馬市準市民と認定し、旅行優待券を贈り、対馬へ足を運んでいただくことで、島内の消費拡大とその後の誘客に繋がるよう取り組みを進めます。

 離島のハンディキャップを軽減することが可能となる国境離島新法の成立に向けては、市議会に国境離島活性化対策特別委員会が設置され、県下関係市町の議会が共に連携しながら粘り強い活動が重ねられてきました。その陳情活動が実り、去る4月20日、参議院において「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法案」が可決成立し、平成29年4月1日から施行される予定となりました。

 なお、同法案には、航空運賃及び航路運賃の低廉化のほか、生活や事業活動に必要な物資費用の負担軽減や雇用機会の拡充策及び安定的な漁業経営を図るための漁船の操業に要する費用負担の軽減などのソフト事業が盛り込まれており、これにより、今後、10年間の地域振興の後ろ盾を得ましたので、関係団体とも連携し、地域社会の維持・発展のため、有効な施策の立案と実施に傾注して参ります。

 イノシシ・シカの被害対策についてでございます。

 対馬市の海岸線延長を超える1千キロメートル以上の防護柵を対馬全島に張り巡らすなど、これまでも様々な対策を実施して参りましたが、近年、シカによるしいたけ原木被害のため「対馬しいたけ」の生産も危ぶまれる中、同時に下層植物の食害で土砂崩れも発生している状況です。

 また、餌を求めて里へ降りて来たイノシシやシカと衝突する交通事故も発生しており、被害は市民生活にも及んでおります。

 これまでも、猟友会会員皆様のご厚意により、共同での駆除は実施されておりましたが、猟犬の確保や経費等に解決すべき課題があると聞いておりますので、その費用負担等を含め、早期に協議調整を行い、有害鳥獣駆除を進めて参ります。

 以上の3項目を喫緊の重要課題と捉えております。

 次に、今後4年間において、「産業振興、企業誘致などによる雇用の場の確保」、「子育て支援、教育の充実」、「高齢者が安心して暮らせるまちづくり」の3つを重点政策として取り組んで参ります。

 第一に、産業振興、企業誘致などに取り組み、雇用の場を確保する政策であります。

 近年、基幹産業である水産業においては、資源の枯渇、魚価の低迷、燃油代の高騰、漁船の老朽化、後継者不足など、厳しい状況が続いていますが、生産者や漁業関係者の努力により、「アナゴ」や「アカムツ」、「アマダイ」等の魚介類はブランドとして浸透しつつあり、都市部の市場では高値で取引されています。

 それに加え、既定の概念に囚われることなく、加工製造・販売まで業務展開することで、新たな付加価値を生む6次産業化を推進することにより、生産者の所得向上に繋げて参ります。これにより、元気な高齢者や女性の雇用、活躍の場を拡げていきたいと考えています。

 引き続き、漁業者の所得安定のため、磯焼け対策、藻場造成、資源管理など漁場環境の保全の取り組みも進めます。

 さらに、漁業後継者の育成のため、国及び県の補助対象事業に加え、本市独自の支援策を組み立て、後継者の確保に取り組みます。

 次に、農林業の振興につきましては、対馬和牛生産を推進します。

 近年、対馬あか牛の取引価格が高価格で推移しており、農業の基盤でもある堆肥生産と合わせて、複合的な経営を推進します。

 また、良質と評価の高い「対馬しいたけ」は、販路の開拓・改善に努め、さらなる生産拡大を進めます。

 林道網の整備・充実による対馬産木材の生産を拡大し、併せて、韓国への木材の輸出促進と熱エネルギーとしてチップ材などの活用も進めます。

 商工業の後継者対策としては、次世代を担う事業継承者が行う、魅力ある店舗への改装や設備投資に積極的な支援を行います。また、急増する韓国人観光客をターゲットにした取り組みに対しても支援して参ります。

 「持続可能な観光づくり」には、地域特性に合わせた様々な手法がありその中、効果的な戦略の一つは「観光の掛け算」と言われております。名所・旧跡頼りの一辺倒の観光ではなく、「歴史×食事×観光」という掛け算を作り出すことに取り組みます。例えば、京都に観光客が押し寄せるのは、神社・仏閣等の歴史遺産の観光とあわせて、京料理という食(しょく)との融合があるからだと言われます。

 対馬にも、「センダンゴ」や「ロクベー」に代表されるように、島の風土が育んだ独自の食材が多くあります。観光客が求める新鮮な魚介類とあわせて、美味しくて新鮮な対馬産の食材の供給システム構築のため、「配送センター」の整備を進めます。

 併せて、新たな観光資源の創出と整備拡充に努めます。

 白嶽や御嶽を中心とした尾根筋を歩くトレッキングコース(対馬版オルレ)を整備いたします。東西両側にそれぞれ海峡が望めるトレッキングコースは、国内においてはオンリーワンだと考えます。

 また、烏帽子岳から眺める浅茅湾の絶景と和多都美神社が観光客に絶大な支持があることから、その周辺道路及び駐車場整備とトイレ等の整備拡充に努めます。

 これは、市長として権限が及ぶところではありませんが、現在、JR九州の国際航路に国内客も乗船できるよう要望を続けておりますが、政府においてもその実現に向け、動き出しをいただいているところであります。

 実現すれば、対馬の北の玄関として、国内外からの観光客の誘客に繋がり、地域の活性化はもとより、市の施策にも波及効果が現れてくるものと考えます。今後、国会議員、県議会議員の皆様のご支援をいただきながら実現に向け強力に要請を行って参ります。

 平成25年に公表された国立社会保障・人口問題研究所による対馬市の将来人口推計では、20年後の平成47年には約2万人に減少すると予測されております。また、高齢化もさらに進み、確実に限界集落も増加する見込みです。このまま手をこまねいていれば、雇用の場と所得の減少さらに教育環境の悪化等という負の連鎖により、さらに過疎化に拍車がかかることが懸念されます。

 この国家的な課題に対応するため、政府においては、「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、それぞれの地方の存続等の視点に立った施策を実施するものとされています。これを受けて、本市も地域課題解決のための「対馬市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、戦略的、且つ横断的に事業を展開して参ります。

 その中、昨今の「ふるさと回帰」の流れを捉え、定年退職後のシニア層や健康な高齢者の移住促進を図ることは、人口減少対策において一定の抑制策となり得るものであり、都市部の高齢者を地方に呼び込む施策(対馬版CCRC)の導入を検討いたします。

 ついては、移住に係る中間支援組織の設置検討及び県と連携した都市部での移住相談の機会の拡充と共に空き家バンク制度の拡充と奨励制度(改修費補助や管理代行)の導入及び地元不動産業との連携による取り組みを加速させます。

 また、韓国人観光客の急増等に伴い、喫緊の最重要課題でありました宿泊施設不足の件につきましては、数年にわたる関係者への誘致活動の結果、ホテル誘致が実現いたしました。

 引き続き、雇用の場確保のため、未利用市有地の有効活用を図り、地域活性化の呼び水となる企業誘致も積極的に進めて参ります。

 第二に、子育て支援、教育の充実に努めて参ります。

 全国第5位である合計特殊出生率を更に伸ばし、人口減少に歯止めをかけるためにも、出逢いの場の提供も必須であると考えます。関係機関とも連携しながら積極的に出逢いの場の提供を進めていきます。また、結婚後は、経済的な支援のため、優先的に市営住宅へ入居できるシステム構築を検討いたします。

 小中学校の統廃合については、児童・生徒の教育環境を第一に考え、地域との十分な協議を深めながら、統廃合を進めていきます。

 また、学校現場においては、学習支援員の増員やICT機器の活用を図り、基礎学力の向上に努める所存です。さらに、対馬の将来を担う人材育成のため、対馬の自然や文化、歴史等をテーマとした持続可能な地域社会を創造していくための学習や活動を推進します。

 第三として、高齢者が安心して暮らせるまちづくりに努めて参ります。

 医療・介護・予防・生活支援・住まいのサービスを有機的に連携し、高齢者の地域での生活を支えるため、地域包括ケアシステムあり方検討委員会の提言を尊重したシステムの早期の構築を図ります。

 交通弱者に対する支援策として、スクールバスの一般利用者との混乗や地域コミュニティバス等の導入により交通手段の確保と改善に努めて参ります。併せて、医療機関までの救急搬送時間の短縮についても道路等のインフラ整備も含め、関係機関で総合的に検討します。

 さらに、いづはら病院跡地を総合的な福祉・健康増進施設の拠点として位置づけ、市民が笑顔で集う場を提供するために、現在の足湯の温泉源(漁火の湯)を活用した小規模な温浴施設や運動施設を整備します。

 一方、シルバー人材センターの全島組織化を推進し、元気な高齢者の知恵と技術を活かした共助の場も創出します。

 次に、これまで述べました重点政策のほか、市政運営に係る重要な事項について申し述べます。

 「自立するふるさとのしま 対馬」を目指し、「海」、「森林(もり)」、「国際ビジネス」、「生ゴミ」、「地域コミュニティ」及び「域学連携」の6つの循環システムの取り組みを引き続き進めて参ります。

 次に、安全で安心なまちづくりの推進であります。

 市内には、集中豪雨による土砂災害の危険性が高い地域が多く存在します。万一の災害に備え、避難指定場所の見直しや防災行政無線、ハザードマップの充実を図るとともに、防災訓練、防災教育の実施により、市民の防災意識の醸成に努めて参ります。

 また、消防団の資材・機材の充実、自主防災組織の設立と育成、活動支援などにより、防災・減災対策の強化と地域防災力の向上に取り組みます。

 水道事業につきましては、簡易水道事業会計と企業会計の統合に向けて事務を進めており、統合に伴う水道料金の見直しを予定しておりますが、市民生活に過重な負担とならないような料金体系を検討して参ります。

 次に、行財政改革についてであります。

 平成27年度の対馬市一般会計予算のうち、地方交付税や国県支出金などの依存財源の割合が約84%となっています。今後も、地方交付税の減額により、ますます厳しい財政状況になることが予想されますが、物件費や人件費の抑制に努め、行財政改革により健全な財政運営を目指します。

 ついては、市民と議会と行政がスクラムを組んで市民協働による行政運営を推進し、市民サービスの維持・向上を最優先に考慮しつつ、アウトソーシングを積極的に導入し、効率的な組織機構を構築します。

 終わりに、これまで、私の市政運営に関する政策目標と理念を申し上げて参りましたが、対馬(しま)づくりの船頭として、市民や議会とともに協働して着実に実行していくことが、対馬市民に対する私の責務であります。

 第2次対馬市総合計画に定めた「若者でにぎわう希望の島」、「地域経済が潤い続ける島」、「支え合いで自立した島」、「自然と暮らしが共存した島」という4つの将来像の実現のため、全身全霊をもって、市政に取り組んで参りますので、ご支援とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げ、私の所信といたします。

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